どのチラシも似ていると、どのブランドも記憶に残らない
人工知能は数秒で魅力的な画像を作れます。しかし、判断を伴わずに使うことで、まったく異なる店や事業が、どれも同じように見え始めています。

これは、人工知能の時代におけるブランドのアイデンティティを考える、全3回の連載の第1回です。今回は、ますます目につくようになった現象を取り上げます。まったく異なる店や事業が、チラシに同じ顔、背景、色、スタイルを使い始めているのです。
最近、まったく異なる店や事業のチラシを見ていて、同じブランドのために作られたようだと感じることがあります。名前も、商品も、価格も違うのに、画像から受ける印象は同じです。
そこには、同じように完璧なモデル、同じポーズ、同じ光沢のある背景、同じ花、同じ宙に浮かぶ物が登場し、書体まで似ています。ロゴを取り除いたら、そのチラシが菓子を作る人のものなのか、衣料品店、美容サロン、不動産仲介業者のものなのか、見分けるのは難しいでしょう。
どれも美しく見えます。けれど、そのブランドならではと感じられるものは、ほとんどありません。
人工知能によって、デザインの知識がない人でも、わずか数秒で驚くような画像を作れるようになりました。これは小規模な事業にとって大きな機会です。特に、写真家やデザイナー、制作チームに継続して依頼することが難しい人にとっては、なおさらです。
問題は、人工知能を使うことではありません。美しい画像なら、それだけで自分たちのブランドを表していると思い込むことです。
「私の店を宣伝するための上品なチラシを作って」といった大まかな指示を入力すると、ツールは一般的なイメージをもとに、上品さとは何かを解釈します。すると、金色、きらめき、洗練された文字、隅々まで美しく整えられた女性、そしてほかの多くのアカウントですでに見たような場面が現れます。
画像は魅力的かもしれません。しかし、似た指示で生成された何百もの画像に似ていることもあります。人工知能は、私たちが求めたことに応えます。明確な方向を示さなければ、もっとも一般的で、見慣れたもので空白を埋めます。だからこそ、多くのブランドが同じように見え始めるのです。
菓子作りでは、この問題がさらに顕著です。私は、クッキーやケーキ、マカロンがあまりにも完璧で、プラスチックのように見える画像を見たことがあります。チョコレートはあり得ない流れ方をし、中のクリームやフィリングには実際には存在しない質感があり、商品は、食材が宙に浮かぶ華やかな場面に置かれています。
その画像は目を引きます。しかし同時に、実際の商品には果たせない約束を生み出すこともあります。
お客さまがデザートを買うとき、期待しているのは、自分が見たものを受け取ることです。チラシに載っているのが人工知能だけで作られたクッキーで、実際の商品は形も色も質感も違うとしたら、その画像はもはや単なる飾りではありません。私たちは、お客さまの期待を変えているのです。
見せ方の工夫は、私たちが売るものの価値を高めるためのものであり、そのものに取って代わるためのものではありません。
だから私は今も、実際に撮影した写真を深く信頼しています。完璧である必要も、高額な制作費をかける必要もありません。適切な光、一貫性のある背景、丁寧に考えた構図があれば、商品の本当の姿を失わせることなく、魅力的に見せることができます。
クッキーに入った小さなひび、生地の質感、マカロン特有の形、フィリングが実際に流れる様子も、その商品のアイデンティティの一部です。
人工知能は、背景を作り、コンセプトを探り、気になるものを取り除き、制作する前にアイデアを視覚化する助けになります。しかし、私たちの仕事を見分けられるものにしている要素をすべて置き換えるのではなく、創造性を支えるために使うべきです。
これらのツールに全面的に頼る危険は、画像が本物ではないと人々に気づかれることだけではありません。もっと大きな危険は、誰もが使う美的なスタイルの中に、自分たちのブランドが埋もれてしまうことです。
誰かが私たちのチラシを見て「きれいだな」と思っても、5分後には誰が投稿したのか思い出せないのであれば、そのチラシは注意を引きましたが、アイデンティティは築けませんでした。
人工知能を使ってチラシを作ったり公開したりする前に、自分にいくつか問いかけることができます。
人工知能で作ったチラシを公開する前に考えたいこと
- 画像に写っている商品は、お客さまが実際に受け取るものと本当に似ているでしょうか。
- 店や事業の名前を変えるだけで、まったく同じチラシを別のブランドにも使えるでしょうか。
- 私はアイデアを育てるために人工知能を使っているのでしょうか。それとも、創造的な判断を避けるためでしょうか。
- この画像は、ほかの発信内容とつながっているでしょうか。それとも、印象的に見えたという理由だけで選んだのでしょうか。
- お客さまは、私が何を売っているのか、どのようなキャンペーンなのか、何をすればよいのかを、すぐに理解できるでしょうか。
チラシにすべてを詰め込む必要はないことも、忘れてはいけません。私たちは、ときに、すべての余白を使わなくてはならないと感じ、写真、文章、装飾、価格、さまざまな書体で紙面を埋めてしまいます。よりよく伝えることは、必ずしも要素を増やすことではありません。優先順位を決めることです。
最初に何を理解してほしいのでしょうか。何を覚えていてほしいのでしょうか。投稿を見たあと、どのような行動を取ってほしいのでしょうか。人工知能は数秒で画像を生成できますが、それだけで答えを知っているわけではありません。その部分には、今も私たちの戦略と判断が必要です。
本来の自分らしさを守るために、新しいツールを拒む必要はありません。必要なのは、それをどう導くかを学ぶことです。アイデンティティを全面的に委ねることなく、可能性を広げるために使うことができます。
ツールは、完璧な場面の中で、完璧な箱を持つ完璧な女性を作れます。しかし、私たちのコミュニティが見たいのは、実際に商品を作っている人、作業する手、その人の仕事場、そしてその人にしかできないことなのかもしれません。
非の打ち所のない画像であふれる世界では、ありのままの現実も、違いを示す方法になり得ます。
私たちのチラシを見た人が、ただ「きれいだね」と言うことを目標にするべきではありません。本当の目標は、ロゴを見つける前から「誰のものか分かる」と言ってもらえることです。
次回は、名前もロゴも見せなくても認識されるブランドがあるのはなぜか、そして人々の記憶に残るその力から、小さな事業は何を学べるのかを考えます。



