リサーチレポート

見えにくい「世話の欠如」をどう防ぐか――日本のネグレクトと支援の届き方

食事、受診、安全な見守り。子どもの日常を支えるものが欠けたとき、通告だけでなく、家庭に実際の助けを届ける仕組みが問われる。

著者: Redacción Razón y Saber
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子どもの安全は、何かを「される」ことだけでなく、必要なことを「してもらえない」ことによっても損なわれる。食事が与えられない。重い病気でも受診につながらない。幼い子が危険な場所に置き去りにされる。ネグレクトは、目に見える暴力とは異なる形で、子どもの命と生活を脅かす。

ただし、家庭の困りごとを見つけることと、親を一方的に断罪することは同じではない。生活が苦しい、保護者が病気になった、頼れる人がいない。背景を把握しなければ、必要な支援を選べない。同時に、事情を理解しようとするあまり、目前の危険を見過ごしてはならない。子どもを守る緊急対応と、生活を支える継続的な援助をどうつなぐかが課題になる。

本稿は2026年10月20日時点で確認できる日本の公的統計、法制度、自治体の事業、相談機関の案内を基に、制度の役割と支援の利用先を検証した。

22万件という数字をどう読むか

こども家庭庁が公表した2024年度の児童相談所における児童虐待相談対応件数は、22万3,691件だった。2023年度の22万5,509件から1,818件、0.8%減少した。対象期間は2024年4月から2025年3月までであり、2026年に起きた出来事の件数ではない。

主な虐待種別では、心理的虐待が13万3,024件で59.5%、身体的虐待が5万2,535件で23.5%、ネグレクトが3万5,612件で15.9%、性的虐待が2,520件で1.1%だった。ネグレクトの件数は前年の3万6,465件から減っている。

この表には重要な注意書きがある。一つの相談が複数の虐待種別に当てはまる場合、主な種別にだけ計上される。ネグレクトがほかの虐待と重なっていても、別の種別に分類されることがある。15.9%という割合を、実際に養育の放棄や怠慢を経験する子ども全体の割合と読み替えることはできない。

また、これは児童相談所が対応した「件数」である。社会の中で起きたすべての被害を把握した調査でも、刑事裁判で認定された事件数でもない。児童相談所につながらない家庭は数字から見えにくい。相談件数の増減には、発見や通告、機関の対応の変化も影響し得る。

したがって、前年比の減少だけで問題が解決に向かったとは断定できない。支援が必要な子を把握できているか、生活上の危険が減ったか、その後も安全が続いているかを併せて見る必要がある。米国の「被害児童数」と日本の相談対応件数を並べて、どちらの国が深刻かと順位づけることも適切ではない。

食事だけではない、養育の責任

児童虐待防止法は、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待を区分する。こども家庭庁はネグレクトの例として、食事を与えない、著しく不潔にする、車内に放置する、重い病気でも病院に連れて行かないといった行為を挙げる。

子どもを直接傷つけていなくても、保護者以外の同居人などによる虐待を保護者が放置する場合は、ネグレクトに含まれる。誰が暴力を振るったかだけでなく、保護する責任を負う大人が子どもを守れていたかという問題がある。

一方、幼い子の世話を十分にできない事情と、危険の程度は個別に確認しなければならない。家の散らかりや一度の欠席だけで、家庭の全体像は分からない。年齢や発達、障害や病気、食事や受診の状況、実際に誰が見守っているかを組み合わせて考える必要がある。

経済的な困窮があれば、それ自体を親の無関心の証拠にしてはならない。しかし、事情が切実であっても、子どもに必要な食事や医療、安全が欠けている状態を放置してよいわけではない。評価すべきなのは、家族に何が足りず、どのような支援や保護によって安全を確保できるかである。

保護者への説明だけで終わらず、子どもの状態を確かめることも重要になる。「支援を紹介した」という記録と、実際に食事や受診につながったという事実は異なる。制度の入り口を案内するだけでは、家庭で欠けているケアは埋まらない。

死亡事例の検証が突きつける課題

2026年9月公表の第22次死亡事例等検証報告は、2024年4月から2025年3月までに発生、または表面化した虐待による死亡事例などを分析した。概要版の死亡事例は65例、子ども77人。これは虐待全体の検証対象であり、77人全員がネグレクトで死亡したという意味ではない。

相談対応統計と死亡事例の検証では、対象も把握の仕方も違う。二つの数字を単純に割って「相談を受けた子が死亡する確率」を計算することはできない。検証の目的は、個々の経過から再発防止の課題を探ることにある。

報告の提言は、妊娠期からつながりやすい相談体制、家庭支援事業の活用、児童相談所と市区町村、関係機関の連携強化を求めている。困っている人が自ら申請するのを待つだけでなく、助けを求めにくい状況にも届く対応が必要だという問題意識である。

これは制度を増やせば直ちに死亡が減ると証明した研究ではない。むしろ、あるはずの相談先や支援を、その家庭が本当に利用できたのかを問う検証である。学校、医療、福祉がそれぞれ断片を持っていても、子どもの生活全体を確認する役割が曖昧なら、危険は見えないままになる。

児童相談所と「こども家庭センター」は役割が違う

児童相談所は都道府県や指定都市などが設置する専門の相談機関で、虐待以外にも子どもの福祉に関する相談を受ける。虐待が疑われるときの安全確認や、必要に応じた保護を担う。

これに対し、市区町村の「こども家庭センター」は、妊産婦、子育て世帯、子どもに対する母子保健と児童福祉の相談支援を一体的に行う仕組みだ。2024年4月から設置が市区町村の努力義務となった。相談を受け、サポートプランを作り、関係機関や地域のサービスにつなぐ。

「努力義務」であることにも注意が必要だ。全国どの自治体にも、同じ名称、同じ規模、同じ開所時間の施設があるとは限らない。自治体によって名称や窓口が異なるため、住んでいる市区町村の案内で確認する必要がある。

日常の育児や家事が立ち行かない段階では、身近な市区町村の相談窓口が入り口になる。虐待が疑われる、子どもの安全を確認できないという場合は児童相談所につなぐ。両者は連携する仕組みであり、家族が一つの窓口を選んだらほかの支援を受けられなくなる、という関係ではない。

一時保護には、子どもの安全を守る役割と、親子の生活を一時的に分ける重大な側面がある。2025年6月には、一時保護開始時の司法審査制度が施行された。親権者等の同意がある場合などを除き、事前または開始から7日以内に裁判官へ一時保護状を請求する枠組みである。緊急の保護と手続きの適正さを両立させる制度として理解する必要がある。

「頑張って」では埋まらない家事と育児

国の家庭支援事業には、訪問、預かり、居場所づくりなど複数の手段がある。子育て世帯訪問支援事業では、訪問支援員が家庭の悩みを聴き、家事や育児を手伝う。妊産婦や、家族の世話を担う子どもがいる世帯なども想定されている。

子育て短期支援事業は、保護者の病気や育児疲れなどで家庭での養育が一時的に難しい場合に、施設や里親等を活用して必要な支援を行う。昼間の一時預かりとも、専門職が養育の助言をする訪問とも目的が異なる。必要なのが休息なのか、家事援助なのか、子どもの預かりなのかを整理すると、相談が具体的になる。

こうした事業が存在しても、申し込めば即日、無料で、希望する時間すべて使えるとは限らない。実施の有無、対象、費用、利用時間は自治体や事業ごとに確認しなければならない。制度の説明と利用可能性を区別することが、読者に役立つ案内の前提になる。

自治体の具体例が堺市にある。2026年4月更新の子育て世帯家事・育児訪問支援事業では、家事や家族の世話を過度に担っている子どもがいる世帯を対象に、食事の準備、洗濯、掃除などを支援すると案内している。保護者の負担を軽減することは、子どもが大人の役割を背負い続ける状況への対応でもある。

同市の案内には限界も明記される。訪問支援員による子どもの預かりはできず、養育者が不在の場合は利用できない。したがって、このサービスを単独のベビーシッターや、保護者が家を空ける間の保育として紹介するのは誤りになる。

家族を支えるとは、親に努力を求めることだけではない。家庭の中で足りなくなった時間、作業、休息を、どのサービスで補うかを具体化することでもある。子どもが家事を手伝うこと自体と、生活や学習を圧迫するほど過度な役割を負うことは区別されなければならない。

早期発見の先に、子どもの生活を確認する

乳児家庭全戸訪問事業は、生後4か月までの乳児がいるすべての家庭を訪問し、情報提供や相談、子どもと保護者の状況把握を行う事業として位置づけられている。産後の孤立が深まる前に家庭と接点を持つ仕組みだが、実施の説明だけで個々の家庭に必要な援助が届いたとは言えない。

健診を受けていない、園や学校につながっていないといった情報は、状況を確かめる入り口になる。ただし、未受診や不登校をそのまま虐待の証拠とすることはできない。病気、移動の困難、学校での問題など、子どもや保護者が説明する事情を聴く必要がある。

一方で、子どもの姿を確認できない状態が続くなら、書類上の連絡だけで安全を判断すべきではない。地域の機関が誰の責任で確認し、必要な援助につなぐのかを明確にすることが求められる。支援を断られた場合も、断ったという事実だけで、危険がないとも、親に悪意があるとも判断できない。

学校や保育所、医療機関、近隣の大人にできるのは、見聞きした事実と推測を分けて伝えることだ。いつ、どこで、どんな状態だったか。子どもは何と言ったか。本人を繰り返し問い詰めたり、家庭の事情を周囲に広めたりすることが安全確認の代わりになるわけではない。

児童虐待防止法は、虐待を受けたと思われる児童を発見した者に、速やかな通告を求める。確証を自力で集め終えるまで待つ仕組みではない。家庭への支援が必要だと考えることと、危険が疑われる子を専門機関につなぐことは、同時に行える。

相談先を使い分ける

虐待が疑われるときは、全国共通の児童相談所虐待対応ダイヤル189(いちはやく)へ。通話は無料で、匿名の通告・相談もできる。2025年12月以降は、固定電話か携帯電話かにかかわらず、オペレーターが地域情報を確認して担当の児童相談所へ転送する。一部のIP電話ではつながらないため、その場合は公式の児童相談所一覧から直接の電話番号を確認する。

虐待に限らない子育てや子どもの福祉の相談には、児童相談所相談専用ダイヤル0120-189-783もある。日々の生活や利用できる支援については、住んでいる自治体のこども家庭センター、子育て支援担当、母子保健の窓口に相談できる。

電話で話しにくい場合は、「親子のための相談LINE」という選択肢がある。対象は18歳未満の子どもと保護者などで、ニックネームでも相談できる。ただし、受付時間は自治体によって異なり、全国一律の24時間対応ではない。公式案内から自分の地域の現在の受付を確認したい。

子ども自身が気持ちを話す先として、チャイルドライン0120-99-7777もある。18歳までの子どもを対象とし、電話は毎日16時から21時まで、12月29日から1月3日を除いて受け付ける。通話は無料で、一部の端末やIP電話では利用できない。気持ちを聴く民間の相談先であり、緊急の出動を求める窓口ではない。

いま暴力が起きているなど警察の緊急対応が必要なら110番、救急車が必要なら119番へ連絡する。命に関わる状況で、LINEの返答や通常の相談時間を待ってはならない。相談、通告、救急は、それぞれ役割が違う。

ネグレクトを防ぐ仕組みは、通告の件数だけでは評価できない。食事が確保されたか、必要な受診ができたか、安全に見守る大人がいるか。子どもの日常が実際に変わったかを確かめることが、予防を制度の言葉から生活の事実に変える。